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岸田内閣の閣僚人事を受けて


 岸田内閣の閣僚人事が発表になり、岸内閣が発足しました。すぐに衆院選挙があり、すぐに第2次岸田内閣になりますが、閣僚のメンバーから見える岸田首相の意図を確認しましょう。

 

 閣僚人事から、巷間言われている「3Aの傀儡政権」「岸田カラーが見えない」という主張をしているマス=メディアは「分かっていない」か、「別の意図があるか」のどちらかでしょう。

 

 分かっていないというのは、「清和会(細田派)から入閣した大臣が必ずしも安倍晋三氏の側近ばかりではない」ということです。

 

 そもそも、清和会は安倍氏に近いメンバーもいれば、故町村信孝氏の系譜をひくメンバーや福田家の系譜をひくメンバーもおり、必ずしも安倍派でまとまっているわけではありません。町村氏の系譜をひくメンバーは、町村氏と安倍氏が2012年総裁選でともに立候補しているので、安倍氏との関係は必ずしもよくありません

 

 安倍氏に近い萩生田光一氏は幹事長・官房長官ではなく、重要閣僚とは言えない経済産業相ですし、弟の岸信夫氏は留任。松野博一氏は町村氏に近く、末松信介氏は参議院からの入閣という意味合いが強いです。今回、清和会は総裁選における対応がバラバラでしたので、1回目の投票で岸田氏に投票した人たちを厚遇したと言えます(党役員人事における福田達夫総務会長もこの一例)。

 

 3Aのうち、甘利明幹事長の閣内における影響力は大きいですが、これも甘利幹事長が麻生派の中で、早々に岸田氏支持を打ち出したことが大きいです。党役員人事でも述べたように、鈴木俊一財務相起用と甘利幹事長起用により、麻生太郎氏を副総裁にした人事は、岸田氏を支持した麻生派内のベテランを優遇しつつ、麻生氏を引退へ持っていこうとする意図があります。山際大志郎氏の経済再生相起用は適材適所であるうえに、甘利氏の側近であること、牧島かれん氏のデジタル相起用も当選3回の女性議員を抜擢する&河野太郎氏を応援した牧島氏を一本釣りし、神奈川における河野・菅・小泉陣営から引き抜くという意味合いもあります。

 

 細田派とならび、4名を入閣させた竹下派の優遇が目立ちます。宏池会(岸田派)と政治的な距離が近く、総裁選で岸田氏を最初から支持したという事実への論功行賞でもあると言えます。一方で、茂木外相を留任する一方、安倍氏に近い加藤勝信前官房長官を閣外に外すことで、竹下派の総裁候補は茂木氏に集約させ、竹下派における安倍氏の影響力を弱めようという意図もあります。加藤勝信氏は総裁候補としては年齢がネックになります(現在65歳)ので、これが総裁候補としては厳しくなったと言えます。

 

 

 総裁派閥である岸田派からは3名が入閣しました。金子原二郎氏は77歳の高齢が批判を浴びていますが、参院予算委員長として、自公政権の大臣が不十分な答弁をした際に注意するなど、公平な運営を重視した人物であり、岸田氏の「対話する姿勢」を念頭に置けば理解できる人事です。また、金子農水相は長崎県知事としての実績、有力な農水族という側面からの起用もあります。金子恭之総務相は2018年の宏池会入会で、政調会長時代の岸田氏を政調会長代理として支えたという距離の近さが入閣の理由です。

 

 二階派の2名入閣のうち、小林鷹之氏の経済安全保障相起用は、開成OBであり、岸田氏が政調会長時代に仕えているうえに、当選3回の若手で自民党内でも有能と評価される小林氏を抜擢するという意味合いが強く、二階派だから入閣したという側面は薄いです。二階派からの入閣は、山口環境相の一人だけというのが実態で、総裁選で河野太郎氏を支持した二階派の武田良太氏のグループを外すという形をとっています。二階派は今後、他派閥の草刈り場になる可能性も否定できません。

 

 石原派・石破派からは入閣がなく、石破派を退会し、無派閥となった古川禎久氏を法務大臣に起用したのも、中々渋い人事です(10/10追記:古川氏はその後、古巣の竹下派に入会しました)。両派閥は小派閥で、今後、派閥を維持できるかどうかという点にも着目です。

 

 

 無派閥では野田聖子氏の入閣が際立ちます。総裁選に立候補したということが大きいですね。この政権で総裁選でもライフワークとして強調していた少子化対策がどの程度、実現できるかが、今後の野田氏の政治家としての運命を分けることになるでしょう。

 

 全体として、3Aを厚遇したように見せつつも、安倍氏・麻生氏の影響力を削ぎつつ、麻生派・清和会の分断を狙っている点で、岸田氏は思った以上にしたたかですねというのが、私の感想です。