学校や予備校に頼まれて書く人も多いと思います。個人的に思っていることを書いておきます。
合格体験記で重要なことは「百も承知のアドバイスは書かない」ということです。代表例は「○○先生についていけば大丈夫です」系のアドバイスです。その先生のおかげで受かったことは事実だろうと思いますし、その先生への感謝の念が強ければ、そうしたメッセージを書きたくなる、ないしはそれを書くことが礼儀のように感じる、もしくはそれが書きたいがために体験記を書いているという感じでしょうか。気持ちはよくわかります。
ただ、力のある先生は体験記に書かなくても、授業で新しい生徒さんを魅了し、指導をしていきます。ですから、そんな当たり前のことを書くことに感謝以上の意味はありません。つまり、後輩へのアドバイスにはならないということです。大事なことは「自分が信頼した先生とはどういう指導をしてくれた先生か」であるとか、「自分が先生を信頼する基準」みたいなものを記すことです。
なお、それについては人によって考え方や感じ方が違いますから、必ず賛同を得られるという類のものではないことを理解して、書かなければいけません。体験記はあくまで個人の体験であり、それをあたかも普遍的であるかのように書くと、体験記という本質からズレることになります。もし、自分がその後も体験記を読んだ後輩を責任をもって指導するのならば構いませんが、そうではないケースがほとんどでしょう。あくまで学習は学習者本人が主体であり、教師や周囲の人間はコーチであるべきです。
より過激に述べれば、出来のあまりよろしくない生徒さんは、先輩の主観的なアドバイスを金科玉条のごとく守り、例年、力のある先生を遠慮がちに慨嘆させます。遠慮がちなのは、それでも体験記を書いてくれたことへの感謝があるからですが、書いた側は自分がお世話になったと感じる先生がそうした矛盾に陥っていること、しかもそれが自分の善意で書いた体験記によるものだとは思いもよらないのです。
体験記を書く際は「自分がこの先生を信頼できると思った瞬間はどういう時だったか」を具体的に書くことです。その具体的な事例から後輩たちは様々な「受験のリアル」を感じ取ります。体験記で重要なのは、「受験のリアルさ」を書くことです。教材のアドバイスを書くなら、どのようなシチュエーションで、何の目的でその教材をやったのかを具体的に書いてください。
ですから、「○○の教材はよいです」というアドバイスも有害です。そこに「成績が偏差値で10上がりました」というようなコメントがついていれば、なおさらです。繰り返しますが、教材に関するアドバイスも「リアルに」書いてください。自分が教材を選択する際の基準や使い方、その教材をやるのに使った時間を具体的に書いてください。
個人的に書いてほしいと思うのが、「1つの教材にどの程度時間をかけたのか、何周したのか」です。一部の優秀な受験生を除き、多くの人は「教材は一周すればよいもの」と思っています。それは、1つの教材を完全にやり切った経験が少ないことからきているのだろうと思います。その誤解を解く意味でも、書いてほしいなと思っています。
合格体験記で受験生が書くべきは、「どの程度勉強したのかを具体的に書く」ことです。それを通じて、後輩たちは「受験のリアル」を感じ取ります。ですから、リアルさが伝わるよう、数字で、具体的に書いてください。その数字が後輩たちを圧倒するとともに、後輩たちをリアルな受験生に変貌させる、合格体験記にはそういう役割があると、私は思っています。